【芸能】アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第18回 違和感
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第18回は怪人との戦いで負傷した七海。その様態は…。
【写真を見る】芸能界の裏側も知ることができる!?アルコ&ピース平子祐希が小説家デビュー!
「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ~んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
都築は考えていた。大怪我を負ってしまった七海の、マスコミへの発表はどうしたものかと。まだ容体は不明で、医師からの説明待ちの状態である。ドラマなどでよく見る手術室の前のソファで・・・といったものではなく、広いロビーの椅子で待機させられていた。救急車から付き添ってくれていた咲恵が「救急隊員の人とポツポツ会話は出来ていて、命に別状はないみたいです」と教えてくれたが、深夜の病院はどうも心細くなる。
「ええ!新メンバーの咲恵さんってSAKIeさんだったの!? うわぁ!TikTok観てます!!凄い!なんでなんでぇ!?」
「前に紹介してたZARAコーデ、あのまま全部揃えました!デニムのセットアップのやつ!いやぁ、脚長っ!ええなあ!!」
都築が咲恵を紹介すると、メンバー二人は興奮を隠さなかった。場所柄いつもなら厳しく注意をするところだが、おそらく半分は七海の怪我の具合への不安を懸命にかき消しているのだろう。努めて明るく振る舞っているようにも見えた。
「そういえば都築さん、明日『ふらっとぶらっと』の撮影やん。七海はどうしたって無理やんなあ」
「・・・そうだな。討伐もアイドル活動自体もしばらく休業だろう」
明けて今日、ピンキー☆キャッチとして散歩番組の収録が入っていた。その後も新曲のリリースやそれに伴うイベント活動、歌番組等々、連日予定は詰まっている。長期の休業となればマスコミへの発表は避けられない。番組収録中の怪我であれば制作側が発表の義務を負うが、今回は特殊なケースである。
もちろん『怪人の討伐の際に怪我を負った』という真実はトップシークレットだ。あくまで私生活の中での怪我として理由付けをしなければならない。それに加え、七海の家族への説明も必要だ。国家機密の為とはいえ、各所に辻褄合わせの嘘をつくのは難しいし心苦しくもある。
「おお、随分いるな・・・・・。 代表者の方おられますか?」
検査をしてくれた当直の若い医師が現れ、付き添いの人数の多さに目を丸くした。そのやや抜けた表情は、説明前から七海の具合に緊急性が低い事を物語っていた。都築が名乗り出ると医師は声をひそめた。
「防衛省から連絡が入りました。別室でご説明しますか?」
「いえ、ここにいるのは全員関係者ですので、こちらで構いませんよ」
「そうですか。では・・・。とりあえず頭部や脳波に異常は見られませんでした。さらに詳しい検査は後日あるでしょうが、まずはご安心下さい。しかし打撲に数カ所の裂傷、左鎖骨の骨折、左肋骨も4本折れています。臓器への損傷、その他諸々も細かな検査は必要ですが今のところは見当たりません」
「そうですか、ありがとうございます」
「通常、事故や事件性が疑われる怪我に関しては警察と情報を共有するのですが、今回に関しては・・」
「承知いたしました。では自衛隊病院への搬送の旨伺っていますので、明日にでも移せるよう手続きをしますね。今は鎮痛剤で大分落ち着いていますがお会いになりますか?代表者のみになってしまいますが・・」
「はい、私が参ります」
重傷には違いないが、耳をそば立てていた一同はひとまず胸を撫で下ろした。
都築は医師の案内で暗い廊下を進み、集中治療室横の個室に通された。点滴の管が吊るされ、額に包帯を巻いた七海の姿があった。寝ているようであれば様子だけ見て帰るつもりだったが、ふと都築の姿に気付いて目を向けた。
「七海、大丈夫か?」
「うん、さっきまで呼吸するだけで痛んだけど今は平気です。みんなは?」
「ああ、みんな無事だよ。七海のお陰だ」
「ねえ都築さん」
「ん?」
咲恵の知名度に驚きつつも、都築はこの言葉で改めて安心できた。確信はないが、TikTokerに気付けるのであれば大丈夫だろうと思えた。サブメンバーの面々に関して説明し、マスコミと両親への説明の口裏を合わせた。試行錯誤した結果、歩道橋の階段でペットボトルを踏んでつまずき、手すりに体を強打した事にした。これくらいシンプルな方がいいだろう。
そして一番重要なのは七海の今後のモチベーションだ。怖い思いをし、これだけの怪我を負った。討伐はもう出来ないと言い出してもおかしくない。
「モチベーション??いやいやいや、私全然やりますよ。続けます」
「そうか良かった・・・。怪人はまだまだ謎だらけだ。日本のみならず世界の平和維持のためにも我々が・・」
「私ね、土地に興味があるんですよ」
「・・・・とち?」
「はい、土地です。私、株式勉強してるでしょう?そのうち土地の運用にも興味が出てきちゃったんです。株はちょこちょこ回し始めてるけど、土地となるともっと資金が必要なんで。だから都築さん、私 身体早く治します。これからも一緒に戦わせて下さい」
「ああ。いや、もちろん。だけど土地って・・」
「単純ですよ。安く買って高く売る。株と同じです。それだけじゃなくて駐車場にしたり賃貸物件を建てたり、借地で出したり。いろんな運用方法があって面白そうなんです。例えば都築さんの親戚で土地を無駄に遊ばせちゃってる方とかいませんか?」
「七海分かった。今日は遅いしダメージも大きいんだ、もう寝なさい」
夢を持ちなさい
目標は大きく
勉強を怠らず
大人が並べる常套句だ。その夢や目標の対象が土地転がしであろうと、文句は言えない。
改めて七海の無事をみんなに伝え、各自解散となった。メンバーを寮に送り届けると、もう朝の6時を過ぎた。都築はマスコミ各社に七海が怪我をした経緯と、しばらく芸能活動を休養する旨をメールで送った。
都築の長い夜がようやく終わり、1時間ほどの仮眠を取るために横になった。しかし、泥のように眠ってしまうはずが、胸に変なモヤモヤが残り寝付けない。何かを忘れているような、引っ掛かりがあるような気持ちが拭えずにいた。ようやくウトウトとしかけた時、都築はその違和感の正体にハッと気付いて飛び起きた。
(つづく)
文/平子祐希
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