【芸能】「W浅野」という社会現象を生む一方で…『抱きしめたい!』はトレンディドラマの終わりの始まりだった
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トレンディドラマの代名詞・W浅野
今回取り上げる『抱きしめたい!』は1988年の7月~9月、つまりは昭和最後の夏にオンエアされました。
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「抱きしめたい!」と書いて「W浅野(だぶる・あさの)」と読みます。そう、浅野温子・浅野ゆう子が、まさに「W主演」という感じで出演。このドラマを契機に、この2人、そして「W浅野」という言葉自体が大ブームになったのでした。
温子が61年生まれ、ゆう子が60年生まれ、でも学年は同じ、つまり同級生。前回取り上げた『男女7人夏物語』の明石家さんま、大竹しのぶはともに50年代生まれだったので(さんま:55年、しのぶ:57年)、主役が60年代生まれに手渡されて、トレンディドラマというカテゴリがいよいよ加速していくのです。
いわば、60年代生まれが演じて、60年代生まれが楽しむエンタテインメントとしてのトレンディドラマ。
さて、「W浅野」の人気がいかにすごかったのか。翌89年のビデオリサーチのタレント人気度ランキング(女性部門/8月度)を見てみましょう。
1位:浅野ゆう子
1位:浅野温子
3位:吉永小百合
4位:山田邦子
5位:小泉今日子
6位:森光子
7位:三田佳子
8位:安田成美
9位:榊原郁恵
10位:和田アキ子
何と「W浅野」が首位を分け合っています。そのくらい彼女たちの人気はすごかった。こんな大盛り上がりの契機となったのが、『抱きしめたい!』だったのです。
◆言葉本来の意味でのトレンディドラマ
時を経て四半世紀後、2013年にリリースされたCD『抱きしめたい! Music Collection』の中で、このドラマの演出を担当した河毛俊作氏のインタビューが収められています。
河毛氏は言います。「80年代の終わりで女の人の勢いが良くなってきた時代」に「リアルな女の人のドラマをやりたい」、そして「女同士の物語を今までとまったく違う切り口でやってみたい」という意図があった、と。
さらには「都会的な洗練されたドラマにしたい」、また「コンセプトの中の一つに夏っぽいというのがあった」、「夏の終わり感」「最後の青春」「最後の楽園」のようなイメージがあった、とも。
これらを一言で要約すれば、つまりは「トレンディドラマ」ということになります。その前に「言葉本来の意味での」と添えてもいいかもしれません。都会的で洗練された夏の世界観の中、女性がいきいきと闊歩するドラマ――これぞ、トレンディドラマ! その象徴としての「W浅野」!
ちなみに、主題歌はカルロス・トシキ&オメガトライブ『アクアマリンのままでいて』。音楽担当はピチカート・ファイヴ。脚本は松原敏春。直前のクールにTBS『海岸物語 昔みたいに…』も手掛けていて、つまりは「昭和最後の夏ドラマ」を一手に引き受けた人。
そして、プロデューサーは大多亮(現フジテレビ専務)。彼が作り上げたといっても過言ではない「言葉本来の意味でのトレンディドラマ」のその後について、彼は語ります――「次から次へとトレンディードラマは作られるけど、設定は大きく変わるわけじゃない。視聴者も飽和状態だったんだろうね」(産経新聞/2013年10月29日)
というのは、『抱きしめたい!』が最高視聴率21.8%、そして90年の『世界で一番君が好き!』(浅野温子主演)が同25.5%と、いよいよ盛り上がっていくのですが、同90年の『恋のパラダイス』(浅野ゆう子主演)が同17.0%と大コケ(それでも今から見たら大した数字ですが)、戦略の転換を迫られます。
そこで、普通のOLとサラリーマンが通勤電車で出会って恋をするという「地に足のついたトレンディードラマ」(大多氏)=『すてきな片思い』(90年。中山美穂主演)で同26.0%と復活するのですが、言い換えればその瞬間、「地に足がついていない」ような「言葉本来の意味でのトレンディドラマ」が、たったの2年で終わってしまったのです。
昭和最後の夏に放送された『抱きしめたい!』は、「トレンディドラマ」という夏の終わりの始まりなのでした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6bbe903181e3aa53d7b3ff5a2ad49fd03822c07e