2020年のスキャンダルによって芸能活動を自粛し、『白黒アンジャッシュ』(チバテレ)で1年8か月ぶりの復帰を果たした渡部建さん(@watabe1972)。2022年11月、そんな彼が著書『超一流の会話力』(きずな出版)を上梓した。
なぜこのタイミングで、コミュニケーション本を出版したのだろうか。番組復帰後の心境、批判を承知で本を出した理由、ツイッターを再開した経緯など、現在の率直な思いを語ってもらった。
――毎週、『白黒アンジャッシュ』(チバテレ)を楽しみにしています。ここ最近では、バカリズムさん、土田晃之さんなど、渡部さんと同時代の芸人さんも出演しました。
渡部建さん(以下、渡部):僕らが若手の頃って横のつながりがそんなになくて、「もうあいつとは口聞かない」みたいな感じでけっこうギスギスしてたんです。それが10年、20年経ってくると、みんな歳とってきて思い出話に花が咲いちゃうんですよね。
ようやく笑って当時のことを話せるのも感慨深いですけど、とくに僕があんなことになった後にきてくれるってことが本当に嬉しいし、ありがたい。同じ時代をともにした戦友というか、本当にいい仲間に恵まれたなと実感してます。
――1990年代は、今の仲の良い世代と空気感が違うでしょうね。
渡部:もうバチバチですよ。ツッチー(土田晃之さん)なんて本当に怖かった。「今日、前歩いてるやつ遅いからケツ蹴ってきてやったよ」みたいなこと平気で言ってましたから。バカリズムも今でこそニコニコのイメージありますけど、ものすごい尖ってましたし。そういう20代を経て、今助けてくれてるのは感謝しかないですね。
――ザ・マミィ、男性ブランコ、ストレッチーズなど、ちょうど渡部さんがお休み中に台頭してきた若手も出演。お話してみて改めて世代の違いを感じたりもしますか?
渡部:ぜんぜん違いますね。僕らがネタ番組にバリバリ出てる頃に、テレビで見てた世代なので。彼らのネタのレベルは本当に高いし、すごいと思うから話聞いていて楽しいです。それだけに、普通の状態で会ってあげたかったなと(苦笑)。向こうに気を遣わせる状況になってしまったので。
――11月に発行された新刊『超一流の会話力』を拝読しました。本のオファーが来た時は「世間に受け入れられるだろうか」という不安もあったそうですね。
渡部:現にSNSを見ると、「お前、どの面下げてコミュニケーションの本出してんだ」「あんな事件起こしたやつが、何っちゅうタイトルつけてんだ」って声があったんですよ。
僕がコミュニケーションの本を出せば、絶対にこういう反応になるなと想像してたから、ショックというよりも「そりゃそうだよな」というのが正直な気持ちです。けど、たぶんいつ出してもこうなるんですよね。
――批判がくるとわかったうえで出版しようと考えたのはなぜですか?
渡部:世にコミュニケーションで困ってる人がたくさんいる中で、実際その指南書を読んでみるとけっこう難しい。それで、ありがたいことにご依頼をいただいた企業講演で「もっとシンプルに考えたほうがいいんじゃない?」ってことを話してみたんです。
活動を続けていくうち、出版社の方から「これは世に出すべき。悩んでる人がすごく助かる内容だから」という言葉をいただきまして。それで、お受けすることになったんですよね。
「超一流の会話力」って、どう考えてもケンカ売ってるようなもんじゃないですか(苦笑)。けど、読んでいただければわかる通り、“超一流”は僕のことではなくて、僕が見てきたテレビ司会者の方々。「そんなすごい人たちを真横で見てきたけど、彼らのやってることって意外とシンプルだよ」って本なんです。
――「何らかの形で社会に貢献したい」という気持ちが根源にあったのでしょうか。
渡部:ちょっとでもコミュニケーションが楽になる人が増えればなっていう思いが強いですね。それと僕自身、今後も講演活動を続きていきたいと思っていて。「渡部建がコミュニケーションについて講演します」ってなると、「だまして女引っ掛けるテクニックなのか?」みたいな声がすぐ飛んできそうじゃないですか。
「いい加減な内容じゃないですよ」「企業向けにやってますよ」ってことを示す名刺とカタログという意味で、この本を出さないと僕的には始まらなかった。だから、「時期が早い」「お前何考えてんだ」という方には、本当に気を悪くさせて申し訳ないんですけど、ちょっとだけ前に進ませてくださいと。もちろん、そういう方に「買ってください」「僕の教えを聞いてください」なんて厚かましいこと言うつもりもないですから。
――本書は、明石家さんまさん、タモリさん、東野幸治さんなど一流のタレントを例に会話の手法を紹介しています。なぜご自身以外のタレントを軸に据えようと考えたのでしょうか?
渡部:コミュニケーション能力の最終地点って「人に好かれること」「人が寄ってくること」だと思うんですよね。だから、まずはよくコミュニケーション本に書かれているような「コミュ力アップ=トークスキルアップ」って誤解を解きたいと考えました。
そして、まさにそれを体現しているのが一流のタレントさんたちです。僕が間近で見てきて思ったのは、「なんで(明石家)さんまさんの番組って、トークのプロでもない人がこんなに楽しく面白くしゃべれるんだろう?」「なんでマツコ・デラックスさんってあんな誰も興味を持てなそうな話題やテーマを持たせられるんだろう?」ってこと。
ぶっちゃけ僕はテクニックも何もないんですよ。先輩たちの真似ばっかりしてきたので、披露したくても自分なりの手法がない。ストロングポイントを挙げるなら、あれだけすごい人たちに囲まれて仕事してきたこと。それで僕にできるのは、「そういうプロの手法は、普通に誰もが真似できる」って伝えることなんじゃないかと考えたんですよね。
――つい最近、過去のツイッターの記録をすべて削除したことでも話題となりました。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
渡部:まずインスタグラムから先にやったんですよ。Yahoo! JAPANの「RED Chair」で東野(幸治)さんとの対談記事(および動画)を告知しなきゃと思って過去の投稿を見返した時に、「嫌な思いをさせちゃうかな」「一緒に写ってる人にも何かあったら悪いな」と思って。それで1回ゼロにして、フォロワーさんに告知したんです。
ツイッターのみなさんにも、いずれご挨拶しなきゃという気持ちはあって。タイミングを見計らった時に、今回の本の発売に合わせようと。
――渡部さんのように大きな失敗をして、なかなか職場で上司や同僚との関係性を取り戻せない若者も多いと思います。そんな方にアドバイスをお願いできますでしょうか。
渡部:僕も渦中に周りから言われてぜんぜん響かなかったんですけど、「時が解決してくれる」ってことですね。放っておいて、グッと耐え忍んだら絶対楽になりますから。大丈夫です、絶対好転するので何事も。だから、まずは安心してほしいと思います。
自粛期間中の僕は、「なんであれやっちゃったんだろう」「あの時これできなかったかな」「この後どうなるんだろう」「子どもはどうなる?」「仕事はどうなる?」っていうので1日のほぼすべてを使ってしまう日々だったんです。
超難しいんですけど、それをやめられたら「今ここにあるものだけ」に集中できるようになります。最終的に仏教とかマインドフルネスとか、そういうものにたどり着く(苦笑)。結局は“今”を見るしかないんですよね。それが今まさに思い悩んでる人に響かないのもわかる。ただ、頭の片隅に入れておいてくれたらと。
あと人に話すだけでも本当に楽になると思うんですよね。誰でもいいので、話せるなら胸の内を話してみてほしい。僕も絶望したんですけど、何だかんだ2年半経ってこうやってしゃべってますから。見せてあげたいです、あの時の自分に。状況としては絶望してる当時からそこまで変わってないんですよ。相変わらず世間の風当たりも強いし、仕事もぜんぜんしてないし。
とはいえ、耐え忍べば絶対楽になる。だから、「何か解決しなきゃ」とか「何か始めなきゃ」っていうのは1回置いといて。とりあえず1日1日過ごしていくだけでダメージはちょっとずつ減っていく……って、俺が誰にアドバイスしてんだ(苦笑)! 言っててゾッとしました。僕のことはさておき、ほんの少しでも何かの足しになればと思います。
<取材・文/鈴木旭 撮影/市村円香 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>
【渡部建】 1972年、東京都八王子市生まれ。1993年、神奈川大学在学中に高校の同級生であった児嶋一哉に誘われ、お笑いコンビ「アンジャッシュ」を結成。2003年、NHK「爆笑オンエアバトル」五代目チャンピオンに輝き、ネタ番組では“コント仕掛け”のスペシャリストと呼ばれる。現在はコミュニケーションにした企業向けの研修などを積極的に行っている Twitter:@watabe1972 Instagram:watabeken
フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中
(出典 news.nicovideo.jp)
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